夏が近づいたせいかどうか(いつも夏だが)、クアラルンプル中華街でも春はあまり見なかったアラブ人ツーリストをよく見かけるようになった。サウジアラビアからの人だろうか。
最近読んだマレーシアの英字紙の評論は、サウジアラビア人が好んでマレーシアを訪れることをほとんど手放しで自画自賛していた。
多くのサウジアラビアツーリストがマレーシアの「自由」を満喫するためにマレーシアを訪れているというのである。そして彼らがいかにマレーシアの自由をうらやましがっているかを強調する。名前だけマレー人風で顔は中国人そのものの女性記者の評論。
しかし、ただ自由を満喫したいだけなら、マレーシアでなければならない理由はないことはみなさんご存知のとおり。
風紀の規制のないフシダラな自由を満喫したいなら、マレーシアよりタイに行ったほうがいい。タイもサウジアラビアツーリストを受け入れている。実際多くのサウジアラビア人がタイに行っているようである。風紀に関してはタイのほうが圧倒的に「自由」だし、安い。
それでもタイよりもマレーシアを選ぶサウジアラビア人が多いのは、「自由」とは別の理由からだろう。
やっぱり、マレーシアが「イスラム国」であること、ムスリムのアラブ人と欧米白人とでは互いに相容れないところがあり白人ツーリストが圧倒的な地位を占めるタイにはアラブ人の居場所が少ないこと、などの理由があるのだろうと察せられる。
英字紙の評論は、サウジアラビアも「よい方向」に変わりつつあることをナイーブに喜んでいるようだった。そして、マレーシアの「自由」を称揚するとともに、マレーシア内部にある「自由」を喜ばない保守勢力への警戒をあらわにしていた。
しかし、もしもサウジアラビアがマレーシア並みに「自由」な国になってしまったら、アラブの金持ち女性たちにとってのマレーシアのツーリズム目的地としての魅力はほとんどなくなるだろう。その記者にはそういうことに関する想像力が不足しているように思えた。
サウジアラビアが風紀に厳しいおかげで、マレーシアのアラブ人ツーリズムが成り立っているのである。
また、マレーシアがクズ白人が殺到するほど「自由」すぎず、売春婦が大手を振って歩き回るような国でないからこそ、カネのあるアラブ人女性や金を落とすアラブ人家族連れがマレーシアを好んで訪れるのである。
もしもイスラム教のタガをはずしてしまったら、マレーシアだってクズ白人が地元売春婦を連れ歩き真昼間からオープンカフェで乳をもんだりする国にならないという理由は全くないのである。
まだまだ後進国であり、タイの隣にある東南アジアの国が、ちょっとでもタガを緩めればすぐにそういう方向に流れることは目に見えている。
マレーシアがもしそんな国になったなら、金持ちサウジのカネを落とす家族連れは近づかなくなるだろう。
重要なのは、自分の国をそういう国にしたいかどうかである。
私は、マレーシアにとっての国益は「自由な国」であることよりも、「東アジアを代表するイスラム国」であり続けることだと思う。
好むと好まざるとにかかわらず、イスラムに対する世界の人々の関心は高まるばかりである。近場でイスラム教国の雰囲気をちょっと味わってみたいという日本人も増えていると思う。
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